健常人および臨床から分離された薬剤耐性菌の研究
近年、強力な抗菌薬であるカルバペネム系抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が世界的に増加し、医療現場で大きな問題となっています。これらの中でも、カルバペネマーゼという酵素を産生する細菌(カルバペネマーゼ産生菌)は、院内感染や集団発生を引き起こすことがあります。
これまでに、アジアや欧州など海外での医療歴を持つ患者から、さまざまなタイプの薬剤耐性菌が分離されており、中には複数の耐性機構を持つ細菌も確認されています。これらの結果は、薬剤耐性菌が国境を越えて広がっていることを示しています。
本研究室では、健常人や臨床現場で得られた細菌を解析し、薬剤耐性の仕組みや感染拡大の背景を明らかにすることで、安全な医療環境の構築と感染対策の向上に貢献することを目指しています。
抗菌薬によるバイオフィルム形成の抑制とその影響の解析
バイオフィルムは、人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連感染など、医療現場で問題となる感染症の原因となることがあります。特に、カテーテルなどの医療機器の表面に形成されるバイオフィルムは、細菌を守る膜のような構造を持ち、抗菌薬や生体の防御機構が効きにくくなることが知られています。その結果、慢性感染や治療が困難な感染症を引き起こす原因となります。
本研究室では、抗菌薬の使用が細菌のバイオフィルム形成にどのような影響を与えるのかを解析しています。抗菌薬がバイオフィルム形成を抑制する場合だけでなく、条件によっては逆に形成を促進する可能性についても検討しています。これらの知見をもとに、バイオフィルムを効果的に抑制する新たな治療法・予防法の確立を目指して研究を進めています。
ESBL産生大腸菌バイオフィルムに対する抗菌薬の作用
セフメタゾール(CMZ)
CMZ(8×MIC)によるフィラメント形成誘導像。
フロモキセフ(FMOX)
FMOX(8×MIC)によるフィラメント形成誘導像。
メロペネム(MEPM)
MEPM(8×MIC)によるスフェロプラスト化誘導像。
これらの抗菌薬は、バイオフィルムを形成したESBL産生大腸菌に形態変化を誘発する可能性があり、治療に際してはバイオフィルム形成を考慮した抗菌薬選択が必要であると考えられる。(Hatayama N., et al., BMC microbiology, 2025.)
自己免疫性疾患における自然免疫・自然炎症の作用の研究
従来、自己免疫性疾患はT細胞やB細胞を中心とした獲得免疫の異常によって起こると考えられてきました。しかし近年、好中球や樹状細胞などの自然免疫系が、自己免疫性疾患の発症や病態形成において重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。
本研究室では、乾癬や血管炎などの動物モデルを用いて、自己免疫性疾患における自然免疫や炎症反応の役割について研究を行っています。特に、好中球の機能やNLRP3インフラマソーム、Toll様受容体(TLR)やNOD様受容体(NLR)といった、病原体や異常を感知する分子の働きに着目し、病態の解明を進めています。
これらの研究を通じて、自己免疫性疾患の新たな発症メカニズムの理解と、新規治療法の開発につながる知見を得ることを目指しています。
泌尿器科系感染症における起炎菌の薬剤耐性・病原性と患者臨床背景・転帰の関連性を解明する後ろ向き解析(当院泌尿器科との共同研究)
泌尿器科系感染症は主に細菌によって引き起こされ、抗菌薬治療や外科的処置などの治療法が確立しています。しかし、患者の臨床背景(病態)と起炎菌の薬剤耐性や病原性との関係は十分に明らかになっていません。本研究では、当院で分離された起炎菌の薬剤耐性および病原性を解析し、患者背景との関連性を明らかにすることで、より適切な治療戦略の確立を目指します。